. 猫の慢性腎臓病(CKD)の概要
- 病態:
腎臓にダメージを与える因子によって尿細管上皮が障害され、同時に間質の線維化が進行する病態。これにより腎機能が徐々に低下し、慢性腎臓病へと至る。 - リスク因子:
- 猫腎臓細胞で培養したワクチン
- 歯周病
- 高血圧
などが影響すると報告されている。
2. 猫腎臓細胞で培養したワクチンと腎障害の関係
2.1 猫腎臓細胞由来ワクチンの問題点
- 猫用ワクチンの多くは猫腎臓細胞を使って培養されていると確認されており、これが腎臓を攻撃する抗体を誘導する可能性がある。
- 調査では、猫腎臓細胞を使わないワクチンとして確認できたのは、「ノビバックTRICAT(三種混合ワクチン)」のみであった。
2.2 ワクチン頻度とCKD発症リスクに関する研究
- 対象: 猫腎臓由来細胞で製造された8種類のワクチンを接種した猫を対象にした回顧的調査。
- 頻度区分:
- 未接種群: ワクチンを接種していない
- 低頻度接種群: 3年以上の間隔でワクチンを接種
- 高頻度接種群: 1~2年に1回の頻度でワクチンを接種
- CKD発症率:
- 未接種群: 22.6%
- 低頻度接種群: 32.5%
- 高頻度接種群: 49.0%
- 全体: 36.7%
- オッズ比:
- 未接種群 vs. 高頻度接種群: OR = 3.29 (95%CI: 1.61–6.73, p<0.01)
- 低頻度接種群 vs. 高頻度接種群: OR = 1.99 (95%CI: 1.08–3.68, p<0.05)
- 考察:
この調査結果から、ワクチン接種頻度が高いほどCKDの発症率も高くなる傾向が示唆されている。つまり、猫腎臓細胞で培養したワクチンの高頻度接種がCKD発症リスクを上げる可能性があると考えられる。
3. 他のリスクファクター:歯周病と高血圧
- 歯周病:
口腔内の細菌が炎症を引き起こし、全身への影響を及ぼす可能性がある。歯周病が進行すると慢性炎症が続き、腎臓にも悪影響を及ぼし得るとされる。 - 高血圧:
猫の血圧上昇は腎臓への負担を増やし、腎機能の悪化を加速させるリスクがある。
4. まとめと留意点
- ワクチン由来の可能性
猫の慢性腎臓病のリスク要因の一つとして、猫腎臓細胞で培養されたワクチンの高頻度接種が関連している可能性が示唆されている。特にワクチン接種の回数が多いほどCKDの発症率が上がるとする研究結果がある。 - 歯周病・高血圧との併発
歯周病や高血圧もCKDの進行に影響を与えることが報告されており、総合的な予防・管理が重要。 - 現状の限界
- ワクチンに関する研究は回顧的調査が中心であり、因果関係を確定するにはさらなる研究が必要。
- 猫におけるワクチン接種のメリット(感染症予防)とのバランスを考慮する必要がある。
- 実践的な対応
- 接種するワクチンの選択: 可能であれば、猫腎臓細胞を使用しないワクチンを検討する(ノビバックTRICAT)。
- ワクチン接種頻度の見直し: 獣医師と相談の上、リスクとメリットを考慮しながら適切な接種スケジュールを決定する。
- 定期的な健康チェック: 歯周病や血圧の管理を含め、腎臓の状態を定期的に検査し、早期発見・早期治療に努める。
参考文献・リンク
**最終的な要点
猫のCKDにおいて、ワクチン接種、特に猫腎臓細胞で培養されたワクチンの高頻度接種は発症リスク増加と関連している可能性がある。一方で、ワクチン接種は感染症予防に有用であり、メリットとデメリットのバランスを考慮する必要がある。歯周病や高血圧を含む複合的なリスク管理が、猫の健康管理において非常に重要である。
猫のワクチン接種の頻度と慢性腎臓病(CKD)および予後との関連について回顧的に調査した。ワクチンの製造に猫の腎臓由来の細胞が用いられていることが確認できた,8 種類のワクチンを接種している猫を対象とした。ワクチン接種の頻度により,未接種群,低頻度接種群(平均 3 年以上の間隔で接種),高頻度接種群(1 ~ 2 年に 1 回の頻度で接種)の 3 群に分類した。CKD の発症率は,未接種群 22.6 %,低頻度接種群 32.5 %,高頻度接種群 49.0 % であり,全体では 36.7 %であった。ワクチン接種の頻度が高い群ほど CKD の発症率は高く,未接種群と高頻度接種群のオッズ比は 3.29(95 %信頼区間:1.61?6.73,p<0.01),低頻度接種群と高頻度接種群のオッズ比は 1.99(95 %信頼区間:1.08?3.68,p<0.05)であった。以上の結果から,ワクチン接種は猫の CKD 発症のリスク因子である可能性が示唆された。
イギリス王立獣医大学のレポートによりますと、猫の慢性腎臓病の危険因子として特定されたのは
歯周病と猫用ワクチンの頻繁な接種の2つとされます。
研究概要
背景・目的
高齢猫における慢性腎臓病(CKD)の発症リスク要因を特定することで、早期発見や予防、病態理解、治療開発に資することを目的としています。そのため、高齢猫(9歳以上)の飼い主から得たアンケートと臨床データをもとに、前向きに追跡調査を行いました
対象と方法
- 対象:148頭の飼い猫(9歳以上、高齢)を対象に調査。
- データ収集:飼い主へのアンケート、および可能な場合は歯科状態の評価も実施。
- 解析手法:単変量および多変量Cox回帰モデルを用いて、CKD(azotemic CKD)の発症リスク要因を分析 ResearchGate+1。
主な結果(多変量解析)
発症リスクを有意に高める要因が以下の通り明らかになりました ResearchGatePubMed:
- 頻回または年1回のワクチン接種
- ハザード比(HR)5.68(95%信頼区間:1.83–17.64、P = 0.003)
- 中等度の歯科疾患
- HR 13.83(95% CI:2.01–94.99、P = 0.008)
- 重度の歯科疾患
- HR 35.35(95% CI:4.31–289.73、P = 0.001)
これらは独立した要因として、azotemic CKD 発症のリスク増加と関連しているとしています。
考察と背景
- CKD の発症には、遺伝的素因(品種)や高齢、他の併存症(脱水、尿路炎症、肥満など)も関与する可能性がありますが、本研究ではワクチン接種頻度と歯科疾患の重症度が突出したリスク要因として示されました
- 歯科疾患(歯周病を含む)が腎臓に影響する背景には、菌体や炎症性物質の血行性の広がりが関与すると推測されます。
- ワクチン接種については、その機構的な影響(例:免疫反応による腎臓へのストレスなど)はまだ十分に解明されておらず、さらなる病因解析が望まれます PubMedskeptvet.com。
結論と今後の展望
- 頻繁なワクチン接種と歯科疾患の重症度が、CKD 発症の独立したリスク要因であることが示されました。
- 予防的観点からは、ワクチン接種計画の適正化および口腔衛生の保持が、CKD の発症リスク低減に寄与する可能性があります。
- ただし本研究には、サンプルサイズの限界や飼い主の回答に基づく情報のバイアス等の制約があります。今後の研究では、これらリスク要因の病理学的検討やより大規模・多施設による検証が求められます。
まとめ
高齢猫(9歳以上)を対象にした前向き cohort 調査により、「頻回なワクチン接種」(HR 5.68)、「中等度の歯科疾患」(HR 13.83)、「重度の歯科疾患」(HR 35.35)が、それぞれ独立してazotemic CKD 発症リスクを増加させる要因であることが明らかになりました。これらは早期発症の予防において注目すべき指標であり、特に歯科ケアの重要性が強調されます。一方で、ワクチンとの関連については今後、そのメカニズム解明と飼い主への適切な情報提供が重要です。
Finch NC, Syme HM, Elliot J. Risk factors for development of chronic kidney disease in cats. J Vet intern Med 2016;30:602-610
ネコの歯周病と慢性腎不全の関連性
https://arkraythinkanimal.com/2025/01/06/mf38/